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浦和地方裁判所 平成3年(行ウ)18号 判決

埼玉県春日部市大字下蛭田三〇〇番地

原告

美咲産業有限会社

右代表者代表取締役

鬼澤因

右訴訟代理人弁護士

宮澤洋夫

同市大字粕壁字浜川戸五四三五番地一

被告

春日部税務署長 大川要

右指定代理人

山田知司

柳井康夫

川名克也

小菅修二

武内信義

佐野友幸

青木優

髙橋義則

齋藤清幸

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成元年一月一七日付で原告の昭和六二年九月一日から昭和六三年八月三一日までの事業年度の法人税についてした更正処分を取り消す。

2  被告が昭和六三年六月二八日付で原告の昭和五六年一二月二六日から昭和五七年八月三一日までの事業年度、昭和五七年九月一日から昭和五八年八月三一日までの事業年度、昭和五九年九月一日から昭和六〇年八月三一日までの事業年度、昭和六〇年九月一日から昭和六一年八月三一までの事業年度及び昭和六一年九月一日から昭和六二年八月三一日までの事業年度の法人税に係る重加算税の各賦課決定処分を取り消す。

3  被告が原告に対し平成元年一月二七日付でした昭和六二年九月一日から昭和六三年八月三一日までの事業年度の法人税の還付金の充当処分を取り消す。

4  被告が平成二年七月九日付で原告の昭和六三年九月一日から平成元年八月三一日までの事業年度の法人税についてした更正処分を取り消す。

5  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、釣堀業を営む同族会社であるが、昭和六二年九月一日から昭和六三年八月三一日までの事業年度(以下、「昭和六三年八月期」という。)の法人税につき、法定期限内に、欠損金額を一七七二万〇四一三円とする確定申告をしたところ、被告は、平成元年一月一七日付で欠損金額を一一三七万九一一五円とする更正処分(以下、「本件昭和六三年度八月期更正処分」という。)をした。

そこで、原告は、平成元年三月三日、国税不服審判所長に対し、本件昭和六三年度八月期更正処分について審査請求をしたところ、同所長は、平成二年五月二九日付で右請求を棄却し、右裁決書は同年六月九日ころ原告に送達された。

2  原告は、昭和五六年一二月二六日から昭和五七年八月三一日までの事業年度、昭和五七年九月一日から昭和五八年八月三一までの事業年度、昭和五九年九月一日から昭和六〇年八月三一日までの事業年度、昭和六〇年九月一日から昭和六一年八月三一日までの事業年度及び昭和六一年九月一日から昭和六二年八月三一日までの事業年度(以下、それぞれ「昭和五七年度八月期」、「昭和五八年度八月期」、「昭和六〇年度八月期」、「昭和六一年度八月期」、「昭和六二年度八月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税につき、いずれも法定期限内に別紙(一)の確定申告欄に記載のとおり確定申告をし、昭和六三年六月一五日、本件各事業年度の法人税につき別紙(一)の修正申告欄のとおり記載した修正申告書(以下、「本件各修正申告書」という。)を提出したところ、被告は、昭和六三年六月二八日付で別紙(一)の原処分欄記載のとおり重加算税の各賦課決定をした(以下、「本件各重加算税賦課決定処分」という。)。

そこで、原告は、同年八月二六日、被告に対し、本件各重加算税賦課決定処分につき異議を申し立てたところ、被告は、同年一一月一七日付で右申立てをいずれも棄却した。

更に、原告は、同年一二月一七日、国税不服審判所長に対し、本件各重加算賦課決定処分について審査請求をしたところ、同所長は、平成二年五月一四日付で右請求をいずれも棄却し、右裁決書は同年六月九日ころ原告に送達された。

3  被告は、平成元年一月二七日付で原告の昭和六三年八月期の法人税に係る還付金三九六万七六〇七円につき、その還付に代えて、原告の昭和五七年八月期、昭和五八年八月期、昭和六〇年八月期及び昭和六一年八月期の各重加算税並びに昭和六二年八月期の重加算税のうち一二四万〇六〇七円の合計三九六万七六〇七円の滞納国税に充当する処分(以下、「本件充当処分」という。)をした。

そこで、原告は、平成元年三月二四日、被告に対し、本件充当処分につき異議を申し立てたところ、被告は、同年六月一六日付で右申立てを棄却した。

更に、原告は、同年七月一四日、国税不服審判所長に対し、本件充当処分について審査請求をしたところ、同所長は平成二年四月二五日付で右請求を棄却し、右裁決書は同年六月九日ころ原告に送達された。

4  原告は、昭和六三年九月一日から平成元年八月三一日までの事業年度(以下、「平成元年八月期」という。)の法人税につき、法定期限内に、欠損金額を一五二三万六九六八円とする確定申告をしたところ、被告は、平成二年七月九日付で欠損金額を一三六九万〇六九三円とする更正処分(以下、「本件平成元年度八月期更正処分」という。)をした。

そこで、原告は、平成二年九月六日、被告に対し、本件平成元年八月期更正処分につき異議を申し立てたところ、被告は、同年一一月二八日付で右申立てを棄却した。

更に、原告は、同年一二月二八日、国税不服審判所長に対し、本件平成元年度八月期更正処分について審査請求をしたところ、同所長は、平成三年七月九日付で右請求を棄却し、右裁決書は同年七月一〇日ころ原告に送達された。

5  しかしながら、本件昭和六三年度及び平成元年度各更正処分、本件各重加算税賦課決定処分及び本件充当処分はいずれも違法であるから、原告は右各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、裁決書の送達日は不知、その余の事実は認める。

2  同2の事実中、裁決書の送達日は不知、その余の事実は認める。

3  同3の事実中、裁決書の送達日は不知、その余の事実は認める。

4  同4の事実中、裁決の日は否認し、裁決書の送達日は不知、その余の事実は認める。裁決の日は平成三年六月二七日である。

三  被告の主張

1  本件昭和六三年度八月期更正処分の適法性について

(一) 原告の昭和六三年八月期の欠損金額は、原告の申告に係る欠損金額一七七二万〇四一三円に、次の各金額を加算した一一三七万九一一五円であるから、本件昭和六三年度八月期更正処分は適法である。

(1) 原価償却超過額の加算額 五九九万三三一四円

(2) 役員賞与の損金不算入額 三四万七九八四円

(二) 減価償却超過額について

原告は、右申告において、その事業の用に供している釣堀用の浮桟橋(以下、「本件浮桟橋」という。)につき、その耐用年数を三年として減価償却費を九七三万四五九五円と算定し、これを損金に算入した。

しかし、法人税法施行令(以下、「施行令」という。)第一三条に定める減価償却資産については、その耐用年数は減価償却資産の耐用年数等に関する省令(以下、「省令」という。)によって定められている。そして、施行令第一三条第二号によれば、「構築物」とはドッグ、橋、岸壁、桟橋等の土地に定着する土木設備又は工作物であり、また、「土地に定着する」とは、土地に固定的に付着して容易に移動し得ないものであって、取引観念上継続的にその土地に付着せしめた状態で使用させると認められることを意味するところ、本件浮桟橋の構造は、L形の鉄骨と平らな鋼板を使用して縦七三九センチメートル、横二八三センチメートル、高さ四五センチメートルの鉄骨枠を作り、右鉄骨枠の中に縦一八〇センチメートル、横九〇センチメートル、高さ四三センチメートルの発砲スチロールのブロックを八個納め、右鉄骨枠の上部に厚さ三・二ミリメートルの鉄板を据え付け、さらに、右鉄板の上に厚さ一二ミリメートルのコンクリートパネル板を張ったものを浮桟橋の長さに応じて複数連結したものであるから、本件浮桟橋は施行令に定める工作物に当たり、また、本件浮桟橋と釣堀の岸をつないでいる渡桟橋は、L形の鉄骨を利用して縦三〇〇センチメートル、横九〇センチメートルの鉄骨枠を作り、右鉄骨枠の上部に鉄板を据え付け、さらに右鉄板の上にコンクリートパネル板を張ったものであり、そのL形の鉄骨三本の一方を岸の土中に打ち込み他方を右渡桟橋の先端部分とボルトでつなぐことにより岸に固着されており、また、本件浮桟橋の先端部分に付着させた輪は、岸に近い池底に打ち込まれた鉄パイプ二本にロープで固定されており、右構造は本件浮桟橋の横の移動を防ぐとともに本件浮桟橋が水位によって上下しても渡桟橋とずれないようにするためであり、そして、本件浮桟橋の要所要所の端につけられた鉄輪の中に鉄パイプを通されていることから、右施行令に定める土地に定着するものということができる。よって、本件浮桟橋の減価償却資産としての種類は「構築物」である。そして、浮桟橋の機能に照らすと、本件浮桟橋の主要材料は浮材である発砲スチロールであるところ、発砲スチロールは合成樹脂である。したがって、本件浮桟橋は省令別表第一の「構築物」のうちの「合成樹脂造のもの」に該当するから、その耐用年数は一〇年である。なお耐用年数は各企業が容易にその判定ができるようにするために簡便性の要請に基づき、当該資産の構造又は用途・設備の種類による分類に応じ省令によって機械的画一的に定められており、耐用年数を短縮すべき特別の事情がある場合は、法人税法施行令第五七条に規定する耐用年数短縮の承認を受ける制度を設けて、税額確定の簡便性と具体的妥当性の要請の調和が図られているのであるから、発砲スチロールも、耐用年数短縮の承認がない限り、通常の合成樹脂と同様に扱うべきである。

以上のとおり、本件浮桟橋の耐用年数は一〇年であって、これを事業の用に供したのは昭和六一年三月で、その取得価格は二五五〇万円であり、定率法による償却率は〇・二〇六であるから、昭和六三年八月期における減価償却額は三七四万一二八一円である。それ故、原告の申告額のうち五九九万三三一四円が償却超過額となる。

(三) 役員賞与の損金不算入額について

原告は、昭和六三年七月二五日付で、当時の原告の代表取締役鬼澤晋(以下、「原告代表者」という。)の役員賞与に対する源泉所得税(以下、「本件源泉所得税」という。)三四万七九八四円を租税公課勘定に計上し損金の額に算入したものであるが、右源泉所得税は本来原告代表者が最終的に負担するものであるから、原告がこれを損金の額に算入した経理は、右額を最終的に原告が負担することによって原告代表者に対し同額の利益を与えたとみることができる。したがって、右は原告が原告代表者に対して支給した臨時的な給与即ち賞与に当るところ、賞与については法人税法第三五条第一項により損金の額に算入されないから、被告は、本件源泉所得税額の損金算入を否認し、申告所得額に加算したものである。

2  本件各重加算税賦課決定処分の適法性について

原告は、本件各事業年度の所得金額のうち、別紙(二)の増加所得金額の内訳欄記載の売上及び雑収入額をいずれも除外する仮装経理をし、右仮装経理に基づいて本件各事業年度の法人税の確定申告書を提出した。

右行為は、国税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実の一部の隠蔽又は仮装に該当し、原告は右隠蔽又は仮装したところに基づいて、本件各事業年度の法人税の確定申告書を提出したのであるから、国税通則法(昭和五七年八月期、昭和五八年八月期については昭和五九年法律第四号による改正前のもの、昭和六〇年八月期及び昭和六一年八月期については、昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下同じ)第六八条第一項が適用されるものである。

ところで、重加算税の対象となる所得金額は別紙(二)〈2〉欄記載の売上及び雑収入に係る金額であり、重加算税の基礎とした法人税額は、別紙(三)〈3〉欄記載のとおりであるところ、右各税額(国税通則法第一一八条第三項に基づき一万円未満切捨て)に、昭和五七年八月期、昭和五八年八月期、昭和六〇年八月期及び昭和六一年八月期については一〇〇分の三〇、昭和六二年八月期については一〇〇分の三五の割合をそれぞれ乗じて計算した重加算税額は別紙(三)〈4〉欄記載のとおりである。

したがって、これと同額の重加算税を賦課決定した本件重加算税賦課決定処分は適法である。

3  本件充当処分の適法性について

(一) 平成元年一月二七日において、原告の昭和六三年八月期の法人税に係る還付金は三九六万七六〇七円あり、他方原告が滞納していた重加算税額は別紙(三)〈4〉欄記載のとおり四三六万八五〇〇円であった。

そこで、被告は、国税通則法第五七条第一項に基づき右還付金を右滞納国税のうち昭和五七年八月期ないし昭和六一年八月期までの重加算税全額及び昭和六二年八月期の重加算税のうち一二四万〇六〇七円の合計額三九六万七六〇七円に充当し、同年一月二七日付で、原告に対しその旨通知したものであるから、本件充当処分は適法である。

(二) なお、後記のように原告は、本件充当は、国税通則法第一〇五条一項但書により許されない旨主張するが、同条但書は差押財産の滞納処分による換価について規定したものにすぎないから右主張は失当である。また、原告は、同条第一項但書、同条第二項及び第三項の趣旨から本件充当処分はすべきでないと主張するが、同法第五七条第一項によれば、税務署長は充当についての裁量権を有していないのであるから、右主張も失当である。

4  本件平成元年度八月期更正処分について

本件浮桟橋の構造及び耐用年数は前記のとおりであるところ、原告は、本件平成元年八月期につき、本件浮桟橋の耐用年数を三年とし、その減価償却を四五一万六八五二円と算定して損金に算入し、欠損金額を一五二三万六九六八円として申告した。

しかし、前記のように本件浮桟橋の耐用年数は一〇年であり、建設費用は二五五〇万円、その償却率は〇・二〇六であり、そこで期末現在の帳簿価額三九一万〇一一二円、当期償却額四五一万六八五二円及び前期から繰り越した償却超過額五九九万三三一四円の合計額一四四二万〇二七八円に右償却率を乗じた二九七万〇五七七円が当期償却額となる。したがって、原告の申告額のうち、右金額を超える一五四万六二七五円が償却超過額となるから、被告は、右額を申告所得の金額に加算したものである。

よって、右更正処分は適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否

1(一)  被告の主張1(一)の事実中、原告の申告欠損金額が一七七二万〇四一三円であることは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  同(二)の事実のうち、渡桟橋が釣堀の岸に固着されていること、本件浮桟橋がロープにより固定されていること及び本件浮桟橋に鉄輪がつけられその中に鉄パイプを通されていること、本件浮桟橋が省令第一の「構築物」のうちの「合成樹脂造のもの」に該当しその耐用年数が一〇年であること、並びに本件浮桟橋の減価償却は否認し、その余の事実は認め、法的主張は争う。

(三)  同(三)の事実のうち、原告が本件源泉所得税を租税公課勘定に計上し損金の額に算入したことは認め、その余の事実は否認し、法的主張は争う。

2  同2の事実は否認し、法的主張は争う。

3  同3(一)の事実中、被告主張のような還付金が存在したこと及び本件充当処分がなされその旨原告に通知がされたことは認め、その余の事実は否認し、法的主張は争う。

同(二)は争う。

4  同4の事実中、本件浮桟橋の構造及び耐用年数については右1(二)のとおりであり、本件浮桟橋の耐用年数及び減価償却額は否認し、法的主張は争う。

五  被告の主張に対する原告の反論

1  本件昭和六三年度八月期更正処分について

本件昭和六三年度八月期更正処分は以下の理由により違法である。

(一) 本件浮桟橋の減価償却について

本件浮桟橋のうち鉄柱部分は土地に固定された基礎部分であるから「構築物」にあたるといえるが、浮桟橋自体は釣堀の水面に浮かべられ、船のように係留されている状態であり、土地には定着していない。そして、本件浮桟橋は、渡桟橋と接着しておらず、単に右渡桟橋と本件浮桟橋との間に通行のための鉄板が置かれているだけで、渡桟橋の先端付近の池底に打ち込まれた二本の鉄パイプと本件浮桟橋の接点はロープだけであり、また、本件浮桟橋の両側のところどころには鉄柱が立てられ本件浮桟橋が浮遊しないようにしているが、右鉄柱と本件浮桟橋は固着していない。

本件浮桟橋の主要材料は、浮材である発砲スチロールであるところ、発砲スチロールは合成樹脂の一種であるポリスチレンの粒子に発砲材を混ぜて七〇倍に発砲させたものであって、一般に使用されている合成樹脂(プラスチック)とは耐久力、他の物質に対する反応、強度、産業上の用途等の点において全く性質を異にする。したがって、本件浮桟橋は「合成樹脂造のもの」にも当らない。

本件浮桟橋は、右のように鉄柱にロープでつながれ水上に係留されているから、このような実態に鑑みると船ということができ、したがって、省令別表第一船舶6「その他のもの」、構造「その他のもの」、細目「その他のもの」に当り、その耐用年数は五年となる。或いは、むしろ発砲スチロールが使用不能となれば浮桟橋として機能しなくなり、また発砲スチロールはその脆弱な性質上通常消耗品として取り扱われていることに基づけば、本件浮桟橋は器具及び備品と解することもでき、この場合においては、省令別表第一の「器具及び備品」「11」「前掲のもの以外のもの」「細目」「漁具」に当り、その耐用年数は三年となるか、或いは、同表が発砲スチロール製品を想定した「器具及び備品」を特定していないことを考慮すれば、同表第一の「一一、前掲のもの以外のもの」の「その他のもの」に当り、その耐用年数は五年となるというべきである。

(二) 本件源泉所得税について

原告は原告代表者に対して役員賞与を支給したことはないから、本件源泉所得税は発生していない。したがって、原告が負担した本件源泉所得税相当額は、原告代表者に対する賞与の支給には当らない。

2  本件重加算税各賦課決定処分について

本件重加算税各賦課決定処分は以下の理由により違法である。

(一) 被告は、原告代表者の自宅において、その承諾を得ずに個人の財布やハンドバッグを開けたり、タンスや押入など家中をかき回し、調査対象者に対し暴言を吐く等して質問検査権の相当性の範囲を逸脱した違法な調査を行った。そして、被告はこのような違法な調査に基づき、原告代表者の妻である鬼澤靖子(以下、「靖子」という。)に対し、本件各事業年度及び昭和五九年八月期の修正申告書の提出を強要したため、靖子は、右修正申告書の提出により青色申告の取消しや重加算税の負担を免れるものと考え、被告の作成した内容に従い、原告代表者の印章を冒用して本件各修正申告書を作成して提出した。以上のとおり、本件各修正申告書は、被告が違法な調査を行ったうえ原告にその提出を強要したものであり、また靖子が原告代表者の承諾を得ずにその印章を冒用して作成したものであるから無効である。したがって、右修正申告に基づいてなされた本件各重加算税賦課決定処分は違法である。

(二) 国税通則法第六八条第一項にいう「隠蔽又は仮装」とは納税者が悪質な意図をもって隠蔽又は仮装したことを意味するところ、被告は従前本件浮桟橋の以前にドラム缶によって作っていた浮桟橋の耐用年数を一五年とし、へら鮒を商品と扱う等の不適切な指導をし、原告は右指導に従い過大な所得申告をして納税したことから運転資金が不足した。そして原告は設備資金の借入金の返済が困難となったため、止むを得ず売上金額を流用したものであって、税金逃れを予定した悪質な意図のもとに過少に申告したものではないから、原告の本件行為は「隠蔽又は仮装」に当らないというべきである。

3  本件充当処分について

本件充当処分当時、原告は本件各重加算税につきその賦課決定処分の取消しを求めて審査請求をしていたから、国税通則法第一〇五条第一項但書により本件各重加算税に対する充当は許されない。仮に同法第一〇五条第一項但書が充当の場合に適用されないとしても、同条第一項但書、同条第二項及び第三項の趣旨によれば、本件充当はすべきではない。したがって、本件充当処分は違法である。

4  本件平成元年八月期更正処分について

本件浮桟橋の耐用年数が一〇年でないことは、前記のとおりであるから、本件浮桟橋の耐用年数を一〇年としてなされた本件平成元年度更正処分は違法である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一1  請求原因1事実のうち、裁決書の送達日以外の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いがない平成二年行ウ第一八号事件における甲第一号証の一(以下、同事件における書証については、単に「甲第一号証」、「乙第一号証」等と表示する。)によれば、右裁決書は平成二年六月九日ころ原告に送達されたことが認められる。

2  請求原因2の事実のうち、裁決書の送達日以外の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第二号証の一によれば、右裁決書は平成二年六月九日ころ原告に送達されたことが認められる。

3  請求原因3の事実のうち、裁決書の送達日以外の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第三号証の一によれば、右裁決書は平成二年六月九日ころ原告に送達されたことが認められる。

4  請求原因4の事実のうち、裁決書の日及び裁決書の送達日以外の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いがない平成三年行ウ第一八号事件における甲第一号証の一、二によれば、右裁決は平成三年六月二七日になされ、同年七月一〇日ころ原告に送達されたことが認められる。

二  そこで、本件各処分の違法性の有無について検討する。

1  本件昭和六三年八月期更正処分について

(一)  減価償却超過額の加算の可否

本件浮桟橋の構造は、L形の鉄骨と平らな鋼板を使用して縦七三九センチメートル、横二八三センチメートル、高さ四五センチメートルの鉄骨枠を作り、その中に縦一八〇センチメートル、横九〇センチメートル、高さ四三センチメートルの発砲スチロールのブロックを八個納め、右鉄骨枠の上部に厚さ三・二ミリメートルの鉄板を据え付け、さらに右鉄板の上に厚さ一二ミリメートルのコンクリートパネル板を張ったものを浮桟橋の長さに応じて複数連結させて釣堀の水面に浮かせたものであること、本件浮桟橋と釣堀の岸の間に渡桟橋があり、右渡桟橋は、L形の鉄骨を利用して縦三〇〇センチメートル、横九〇センチメートルの鉄骨枠を作り、右鉄骨枠の上部に鉄板を据え付け、さらに右鉄板の上にコンクリートパネル板を張ったものであり、右渡桟橋と岸との間にはL形の鉄骨三本の一方を岸の土中に打ち込み他方を渡桟橋の先端とボルトでつないでいること、そして渡桟橋の先端付近の岸に近い池底に鉄パイプ二本を打ち込み、本件浮桟橋の先端部分に付着させた輪と右鉄パイプとをロープでつないでおり、右構造は本件浮桟橋の横の移動を防ぐとともに本件浮桟橋が水位によって上下しても渡桟橋とずれないようにするためであり、また本件浮桟橋の両側の要所要所に鉄柱が立てられていることは、当事者間に争いがない。

そして、成立に争いがない乙第一〇号証の一、二、第一一号の一、二、並びに弁論の全趣旨によれば、本件浮桟橋につき水位の上下による縦の移動を可能にしつつ横に浮遊するのを防ぐため、本件浮桟橋に輪を付着させ、これを前記のように本件浮桟橋の両側の要所要所に立てられた鉄柱に通していることが認められる。

そこで、本件浮桟橋が、省令別表第一の「構築物」に該当するかどうかを検討すると、施行令第一三条第二号によれば、構築物とはドッグ、橋、岸壁、桟橋等の土地に定着する土木設備又は工作物であるところ、土地に定着するとは、土地に固定的に付着して容易に移動し得ず、取引観念上継続的にその土地に付着せしめた状態で使用されると認められることと解するのが相当である。そうすると、本件渡桟橋と岸は固定して接続されているが、本件桟橋と渡桟橋は固定して接続されていないけれども、本件浮桟橋は釣堀の岸近くの池底に立てられた二本の鉄柱とロープでつながれ、また本件浮桟橋に付着している輪を本件浮桟橋の両側の要所要所に立てられた鉄柱に通しているのであるから、本件浮桟橋のこのような構造に照らすと、本件浮桟橋は水面上に固定され容易に移動し得ないものということができ、また取引観念上も継続的にその状態で使用されるものであり、なお本件浮桟橋が渡桟橋や鉄柱と完全に固定されていないのは、水の増減による本件桟橋の上下運動を可能にするために過ぎず、それ以外の点においては通常の桟橋と何ら異なるところはないこと、本件浮桟橋は鉄骨等を機械的に加工して製作した工作物であること等の事実によれば、本件浮桟橋は、鉄柱部分のみならず、全体として省令別表の「構築物」に該当すると解するのが相当である。右認定に反する甲第二〇号証及び第三二号証の四の記載部分及び証人根元茂信の証言部分は採用することができない。

次に、本件浮桟橋が「合成樹脂造りのもの」に該当するかどうかを検討すると、本件浮桟橋の主要材料が発砲スチロールであることは当事者間に争いがないところ、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一五号証、第二一号証によれば、発砲スチロールは合成樹脂であるポリスチレンを約七〇倍に発砲させたものであることが認められる。従って、本件浮桟橋が「合成樹脂造りのもの」に該当することは明らかである。

尤も、原告は、発砲スチロールは合成樹脂を約七〇倍に発砲させたものであり、したがってその耐久力や強度等は通常の合成樹脂より劣るから、その耐用年数を通常の合成樹脂のそれと同一にすることは相当でない旨主張するが、減価償却の対象となる資産の種類、構造、用途等は極めて多種多様であるから、減価償却を適用して税額を確定するに当たっては、その簡便性の要請を無視することはできず、また課税の公平を図るべきであり、したがって減価償却に関する定めはある程度画一的にする必要があるというべきである。そして省令の別表第一においては、資産をその属性に応じて大別し、次にその用途や構造等の区分により耐用年数を定め、減価償却についてはこのような分類基準を機械的画一的に適用するものとしており、ただし耐用年数を短縮すべき特別の事情がある場合は、施行令第五七条において耐用年数短縮の承認を得べきものとされており、このように減価償却に関する規定が税額確定の簡便性と具体的妥当性の要請の調和を図っていることからすると、発砲スチロールの場合も、耐用年数短縮の承認がない限り通常の合成樹脂と同一の耐用年数によるべきものと解するのが相当である。そして、原告は、本件浮桟橋につき耐用年数短縮の証人を受けた旨の主張は、何らしていない。

よって、本件浮桟橋は、省令別表第一の「構築物」の「合成樹脂造りのもの」に該当するところ、原告は本件浮桟橋について耐用年数短縮の承認を得た旨を主張しないから、本件浮桟橋の耐用年数は一〇年となる。

成立に争いがない乙第二八号証、証人鬼澤靖子の証言により真正に成立したと認められる乙第二二号証の一ないし三及び右証言を合わせると、本件浮桟橋の建設費用は二五五〇万円であり、期末現在の帳簿価額は八四二万六九六四円であり、当期償却額は九七三万四五九五円であるとみとめられる。そして、省令別表第十によれば、耐用年数一〇年の場合の償却率は、定率法によれば〇・二〇六であるから、本件浮桟橋の昭和六三年度八月期における減価償却額は、右帳簿価額と当期償却額の合計一八一六万一五五九円に右償却率を乗じた金額三七四万一二八一円となる。したがって、原告の当期償却額の申告額のうち、右金額を越える五九九万三三一四円は償却超過額となる。よって、被告が右超過額相当額を原告の申告所得額の金額に加算したことは、適法である。

(二)  役員賞与の損金不算入額の加算について

原告が、昭和六三年七月二五日付で原告代表者の役員賞与にかかる源泉所得税三四万七九八四円を租税公課勘定に計上し損金の額に算入したことは当事者間に争いがないところ、右源泉所得税は、最終的には本来原告代表者が負担すべきものである。そこで、原告がその経理において右全額を損金の額に算入したことは、右金額を最終的に原告が負担することを意味するから、これによって原告代表者に対し同額の利益を与えたものといわなければならない。したがって、右利益は、原告が原告代表者に対して支給した臨時的な給与即ち賞与に当たるものである。

そして、法人税法第三五条第一項によれば、賞与は損金の額に算入されないから、被告が右源泉所得税額を損金に算入することを否認し、申告所得金額に加算したことには、何ら違法の点はない。

(三)  よって、原告の昭和六三年八月期の欠損金額は、原告の申告にかかる欠損金額一七七二万〇四一三円から、減価償却超過額の加算額五九九万三三一四円及び役員賞与の損金不算入額三四万七九八四円を控除した一一三七万九一一五円であるから、本件更正処分は適法である。

2  本件各賦課決定処分の適法性について

(一)  法人税の課税標準の計算等の基礎となるべき事実の隠蔽または仮装について

甲第一三号証及び乙第二三号証の各存在、成立に争いがない乙第六号証及び証人鬼澤靖子、同根本茂信、同中沢哲の各証言によれば、靖子は原告代表者の妻であり、原告の取締役兼経理責任者であって、原告代表者から原告の日常の経理を任されていたこと、原告は被告から売上を除外している等の問題がある旨指摘されたことから、昭和六二年一二月ころ種々の件につき中小企業の相談に応じる団体である中企連の職員である根本茂信に被告との折衝を依頼し、同人との打ち合わせは専ら靖子が担当したが、原告代表者も折衝のため根本とともに被告に赴いたことがあること、根本は、被告と折衝した結果修正申告書を提出しなければ原告につき青色申告を取り消されることが明白になったので、靖子にその旨説明し、修正申告書並びに嘆願書の提出を促したこと、すると靖子はこれを了承し、後記のように本件各修正申告書を作成するとともに、甲第一三号証及び乙第二三号証の原本である嘆願書と題する書面に原告代表者の記名と押印をして、これを本件各修正申告書とともに根本に交付したこと、右嘆願書は、昭和六三年六月一五日付けの被告宛ての書面であり、その内容は、原告が昭和五六年一二月に原告を設立以降昭和六二年八月期まで六期にわたり売上を除外していたことを認め、今後は会計の適正な処理に努めるように約する旨を含むもので、原告にとっては極めて重大な書類であること、根本は右同日右嘆願書を本件各修正申告書とともに被告に提出したことが認められる(なお、乙第二三号証の原告代表者の印影については、争いがない。)そして、右のような原告代表者と靖子との身分関係、地位及び職務、被告との折衝に関する事情、嘆願書の内容、これを作成提出した理由、後記のように原告代表者は靖子が署名を代行して本件各修正申告書を作成することを承諾していた等の事実に照らすと、靖子は原告代表者の承諾を得て右嘆願書の原本に原告代表者の記名と押印をしたものと推認することができ、証人鬼沢靖子の証言中靖子が原告代表者の意思に反して右嘆願書を作成した旨の部分は、前掲各証拠に照らして採用できない。

(1) そこで、右乙第二三号証、甲第一三号証、成立に争いがない甲第四号証、乙第一号証、同一二号証の一ないし六四、同第一七号証、第二〇号証(乙第一七号証及び第二〇号証については、原本の存在とも)、証人中沢哲、同根本茂信の各証言によれば、原告は、設立以来資金繰りが大層苦しい状況であったため、昭和五七年度八月期の売上金額のうち、入園料収入五六三万六五〇〇円及び弁当差益六六万一七五〇円合計六二九万八二五〇円を売上金額から除外する仮装経理をしたことが認められる。

(2) 右(1)のように原告は設立以来資金繰りが大層苦しい状況であったため昭和五七年度八月期の売上金額の一部を除外する仮装経理を行い、また後記のように昭和後九年度九月期以後も経営が同じ状況であったため売上金額の一部を除外する等の仮装経理を続けており、次に前掲甲第一三号証、乙第二三号証によれば、原告は、昭和五六年一二月に原告が設立されて以降昭和六二年八月期まで六期にわたり売上を除外していたことを認めており、成立に争いがない甲第五号証及び乙第二号証によれば、原告は、昭和五八年度八月期の修正申告において売上金額を四五〇万円加算していることが認められるので、これら事実に基づけば、原告は、その資金繰りのため、昭和五八年度八月期においてもその売上金額のうち四五〇万円を除外する仮装経理をしたものと認められる。

(3) 前掲甲第一三号証、乙第二〇号証、第二三号証、成立に争いがない甲第六号証、乙第一三号証の一ないし五六、第一四号証の一ないし二九、第二四号証、証人中沢哲の証言により真正に成立したと認められる乙第一五号証の一及び二、証人中沢哲及び同根本茂信の各証言によれば、原告は、資金繰りに窮していたため、昭和五九年度八月期の売上のうち入園料七七四万三五五〇円並びに弁当及び酒類の差益一七万二八〇五円合計七九一万六三五五円を売上から除外する仮装経理をしたことが認められる。

(4) 前掲甲第一三号証、乙第一五号証の一、二、第二〇号証、第二三号証、成立に争いがない甲第七号証、乙第三号証、証人中沢哲、同根本茂信の各証言によれば、原告は、右同様の理由から、昭和六〇年度八月期日の売上金額のうち、入園料収入三二五万〇三〇〇円を売上から除外する仮装経理をしたことが認められる。

(5) 前掲甲第一三号証、乙第二〇号証、第二三号証、成立に争いがない甲第八号証、乙第四号証、第一六号証の一ないし三七、第一八号証(乙第一六号証の一ないし三七、一八号証については、原本の存在とも)、証人中沢哲及び同根本茂信の各証言によれば、原告は、右同様の理由から、昭和六一年度八月期の売上金額のうち入園料収入一二五四万六五五〇円及び弁当差益三四万八三〇〇円合計一二八九万四八五〇円を売上から除外し、また雑収入一二万五〇〇〇円を計上しない仮装経理をしたことが認められる。

(6) 前掲甲第一三号証、乙第一八号証、第二〇号証、第二三号証、成立に争いがない甲第九号証、乙第五号証、第一六号証の一及び三九ないし八三(乙第一六号証の一及び三九ないし八三については、原本の存在とも)、証人中沢哲及び同根本茂信の各証言によれば、原告は、右同様の理由から、昭和六二年度八月期の売上金額のうち入園料収入二二一八万六〇五〇円及び弁当差益三一万三一〇〇円合計二二四九万九一五〇円を売上から除外し、また雑収入三一万二五〇〇円を計上しない仮装経理をしたことが認められる。

なお、国税通則法第六八条第一項所定の重加算税の要件である、納税者が国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し又は仮装するとは、納税者が故意に右のような事実を隠蔽し又は仮装することであって、原告主張のように納税者が隠蔽等につき悪質な意図を有することまでも必要とするものではない。そして、原告は、前記(1)ないし(6)のとおり本件各事業年度において故意に売上等を計上しない仮装経理をしなかったのであるから、いずれも重加算税の要件を充たすことは明らかである。

(二)  重加算税の計算の基礎金額

(1) 昭和六三年六月一五日に本件各修正申告書が被告に提出されたことは、当事者間に争いがない。

前記のように根本茂信は原告から依頼を受けて被告と折衝した結果、修正申告書を提出しなければ原告の青色申告が取り消されることが明白になったので、その旨靖子に説明して修正申告書の提出を促したところ、同女は右事情を了解したものであり、証人鬼澤靖子及び同根本茂信の各証言によれば、根本は、そこで靖子を指導して本件各修正申告書の内容を記載させ、靖子はこれに原告代表者の氏名を記載してその押印をしたことが認められる。

ところで、証人鬼澤靖子の証言によれば、原告代表者は修正申告書等を提出することに反対であったが、靖子は青色申告を取り消される事態を回避するため、原告代表者に無断で本件各修正申告書に原告代表者の氏名を記載しその押印をし、根本を介して被告に提出したというのである。しかしながら、前記のように靖子は原告代表者の妻であり、原告の取締役兼経理責任者であって、原告代表者から原告の日常の経理を任されており、原告は被告から売上の除外等を指摘されたため根本に被告との折衝を依頼し、原告代表者は根本と被告の元に赴いたこともあり、根本は、被告との折衝の結果修正申告書を提出しなければ青色申告を取り消されると判断して靖子に修正申告書の提出を促し、靖子も青色申告の取消を回避するため修正申告書を提出することとしたのであり、そして原告代表者が青色申告が取り消されることを受容する意思を有していたこと及び本件修正申告書が提出されたことを知った後に根本や靖子に対し苦情等を述べたことを認めるに足りる証拠はないばかりか、原本の存在及び成立に争いがない乙第一九号証の一ないし五によれば、原告は本件各修正申告書の提出により納付すべき税額を昭和六三年七月二五日に納付していることが認められる。そうすると、本件各修正申告書の作成と提出は、原告の青色申告が取り消されるかどうかにかかる重大な事柄であり、原告代表者がその取消を受容する意思を有していたとはいえないのであるから、右のような原告代表者と靖子の身分関係、靖子の地位、職務、原告が本件各修正申告に基づく税額を納付している事実等に照らすと、靖子は原告代表者の承諾を得て、本件各修正申告書に原告代表者の氏名を記載してその押印をし、根本にその提出を託したものと認められ、右認定に反する証人鬼澤靖子の証言部分は採用することができない。

(2) ところで原告は、被告は違法な調査を行ったうえ原告に本件各修正申告書提出を強要したものであるから、本件修正申告は無効であると主張する。

(ア) しかしながら、税務調査の手続は、課税庁が課税要件の内容をなす具体的事実の存否を調査するための手続にすぎず、他方修正申告は、右調査手続とは関連なく納税者がその意思に基づいて行うものである。したがって、右調査手続の違法と修正申告の効力との間には何ら因果関係がないというべきであるから、調査の違法を理由とする本件修正申告が無効であるとの原告の主張は、本件税務調査手続の違法性の有無を判断するまでもなく、失当といわなければならない。

(イ) 次に、前記のように原告は根本に被告との折衝を依頼し、根本は被告と折衝した結果、修正申告書を提出すべきであるとの見解となり、靖子にその旨助言し、そこで原告は本件各修正申告書を提出したのであり、証人中沢哲、同根本茂信、同鬼澤靖子の各証言によれば、根本が被告と折衝した過程において、被告の職員が根本に修正申告書の提出を強要したことはないと認められる。

(三)  重加算税額

重加算税の対象となる所得金額は前記(一)の売上等であり、別紙(二)〈2〉欄記載のとおりである。そして、前記のように昭和五七年八月期、昭和五八年八月期、昭和六〇年八月期から昭和六二年八月期までの確定申告及び修正申告書の各内容は別紙(一)のとおりであるから、重加算税の基礎となる法人税額は、別紙(三)〈3〉欄記載のとおりである。したがって、重加算税額は、右各税額に、昭和五七年八月期、昭和五八年八月期、昭和六〇年八月期及び昭和六一年八月期については一〇〇分の三〇、昭和六二年八月期については一〇〇分の三五の割合をそれぞれ乗じた額であり、右金額は別紙(三)〈4〉欄記載のとおりである。

よって、本件各重加算税賦課決定処分は、適法である。

3  本件充当処分の適法性について

前記のように原告の昭和六三年八月期の法人税に係る還付金が三九六万七六〇七円であり、被告が平成元年一月二七日付けで右還付に代えて昭和五七年八月期、昭和五八年八月期、昭和六〇年八月期の重加算税及び昭和六一年八月期の重加算税のうち一二四万〇六〇七円に充当する処分をしたことは当事者間に争いがなく、また原告が昭和五七年八月期、昭和五八年八月期、昭和六〇年八月期及び昭和六一年八月期につき重加算税の納付義務があり、その金額が別紙(三)〈4〉欄記載のとおりであることは、前記認定のとおりである。

なお、原告は、右充当処分の当時右重加算税の賦課決定処分に対して調査請求をしていたから、国税通則法第一〇五条第一項但書により本件還付金の充当処分をすることは許されず、仮に右充当処分が許されるとしても、同条第一項但書、同条第二項及び第三項の趣旨に照らすと本件充当処分はすべきではないと主張するけれども、同法第一〇五条第一項但書は国税の徴収のための差押財産の滞納処分による換価について規定したものにすぎず、また同法第五七条第一項によれば、被告は本件還付金を本件重加算税に充当しなければならなかったのであるから、本件還付金の処分につき同法第一〇五条第一項但書、同条第二項及び第三項の趣旨を準用する余地はないものである。したがって、原告の右主張はいずれも採用することができない。

よって、本件充当処分に違法な点はない。

4  本件平成元年度八月期更正処分の適法性について

前記のように本件浮桟橋の建設費用は二五五〇万円、耐用年数は一〇年、償却率は定率法により〇・二〇六であり、原本の存在及び成立に争いがない甲第三六号証によれば、本件浮桟橋の期末現在の帳簿価額は三九一万〇一一二円、当期償却額は四五一万六八五二円、前期から繰り越した償却超過額は五九九万三三一四円であると認められる。そこで、本件浮桟橋の平成元年度八月期における減価償却額は、右帳簿価額と当期償却額と前期から繰り越した償却超過額の合計一四四二万〇二七八円に右償却率を乗じた金額二九七万〇五七七円となる。したがって、原告の当期償却額の申告額四五一万六八五二円のうち、右金額を越える一五四万六二七五円は償却超過額となるから、被告が、右同額を原告の申告所得額の金額に加算したことに何ら違法はなく、それ故本件平成元年度八月期更正処分は適法である。

三  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大喜多啓光 裁判官 髙橋祥子 裁判官 岡口基一)

別紙(一)

別紙(二)

別紙(三)

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